40年の歴史を持つ紳士服ブランドが次の10年に備えるとき、何を変え、何を守るべきなのか。ライフスタイル企業LFを代表するメンズブランド、MAESTRO(マエストロ)がローンチ40周年を機に示した答えは、高級化とパーソナライズ、そして海外展開である。同社は顧客感謝イベントや公式ホームページの開設といった記念施策を展開する一方、ハイエンドラインとパーソナライズサービスを強化し、韓国を代表するラグジュアリーメンズブランドへの飛躍を目指す計画を明らかにした。
出発点は、既存顧客との関係をあらためて確かめることだった。MAESTROは去る22日、ソウル・江南区のセレクトショップ「ラウムイースト」にVIP顧客約20名を招き、40周年記念イベントを開催した。イベントはLF MAESTROチーム長ペ・ジェフンによるプレゼンテーションに始まり、トークショー、顧客同士のネットワーキング、プレミアムな美食へと続いた。この場でブランドは、40年にわたり築いてきたテーラリングのヘリテージとブランド哲学、26FW・27SSコレクションを紹介し、今後のブランドビジョンを共有した。
トークショーの進行役を務めたのは、アクトツーベンチャーズ代表で、登録者37万人のYouTubeチャンネル「ミキペディア」を運営するミキ・キムである。テーマは、イタリア特有の自然体の洒脱さと余裕を意味する「スプレッツァトゥーラ(Sprezzatura)」。人生の余裕、服を着る姿勢、良いスーツの条件などを顧客と語り合い、MAESTROが追求する自然な品格とエレガンスを伝えたというのが同社の説明だ。40周年記念「ローマスーツ」キャンペーンにブランドアンバサダーとして参加したモデルのキム・ソウォンもイベントに出席した。
製品面では、40周年記念の特別コレクションを発表する。イタリアの最高級生地を用いたスーツ、ジャケット、コートの計5型で構成される。ジャケットには自然なシルエットの「コンフォートフィット(Comfort Fit)」と、男性的な構築美を強調した「ローマフィット(ROMA Fit)」をそれぞれ採用し、ブランド独自のパターン設計技術を盛り込んだ。10月末からは店内に商品をビジュアルで見せる専用の演出スペース(VPゾーン)を設け、記念コレクションの意義を訴求する予定である。
注目すべきは、顧客がすでに所有している服をキャンペーンの中心に据えた点だ。MAESTROは10月26日から11月8日まで、「あなたのMAESTROが40年の歴史になります」というメッセージを掲げ、旧ブランドロゴの認証イベントを実施する。歴代MAESTROロゴ3種のいずれかが付いたスーツまたはジャケットを百貨店の店舗に持参して認証すると、先着40名に2026年秋冬の新作シャツを贈呈する。さらに該当商品を寄贈した顧客の中から抽選で5名に新作ジャケットも提供する。時代ごとに変わってきたラベルにはブランドの歴史が、顧客が大切にしてきたスーツにはそれぞれの思い出や経験が込められている、というのが企画の趣旨だと同社は説明する。公式Instagramでは40周年のお祝いコメントイベントを開催し、新たな顧客とのコミュニケーションも広げる。
新規販売より先に所有体験を呼び起こすこの手法は、長寿ブランドが持つ資産を再確認する仕掛けと読める。ただし、これを新規顧客の獲得につなげるには、オンラインの接点が下支えしなければならない。MAESTROは去る10月22日、国内外の顧客に向けた韓国語・英語の公式ホームページを開設した。ブランドの歴史と哲学、キャンペーンビジュアル、最新コレクションを幅広く紹介し、40年のヘリテージとテーラリングの競争力をグローバル市場に発信するコミュニケーション基盤とする構想である。
ホームページは、単なるブランド紹介にとどまらず、店舗サービスへとつながる構成を志向している。「セレモニー(CEREMONY)」カテゴリーではウェディングスーツやレンタル衣装など特別な瞬間のためのスタイルを体系的に提案し、「フィットガイド(FIT GUIDE)」ではフィットごとのシルエットと特徴を比較できるようにした。パターンオーダー(MTM:既製パターンをベースに顧客の寸法や好みを反映して仕立てる方式)の製作工程や使用生地のブランドも詳しく紹介する。さらに店舗予約機能を連動させ、オンラインでの検索・閲覧がオフラインでの専門的なサービス体験へとつながるよう設計した。
では、MAESTROが高級化を語れる根拠は何か。同社が掲げるのは、蓄積された製造技術である。MAESTROは1986年、「最高の紳士服をつくる」という哲学のもとに誕生し、イタリア紳士服の美学を韓国人の体型と感性に合わせて発展させてきたと説明する。1985年に設立された量産スーツ工場の製造技術を基盤に、2004年には独自の「フォワードピッチ(Forward Pitch)」システムを開発した。肩線を前方へ移動させて上半身のバランスを整えるナポリ仕立ての技術を韓国人の体型に合わせて応用したもので、これにより自然な動きと快適な着心地を実現したと同社は明かす。当時イタリアでも一部の高級スーツブランドが用いていた技術を国内の紳士服に導入した、というのが同社側の説明だ。
同年にはドラマ『パリの恋人』の制作を支援し、俳優パク・シニャンを起用した広告キャンペーンを展開して劇中のハン・ギジュのスーツを商品化、これを機に代表的な紳士服ブランドとしての地位を確立した。2004年にはArmaniとLoro Pianaで商品開発総括ディレクターを務めたクラウド・テスタをコンサルタントに迎えた。2008年にはドラマ『ベートーベン・ウイルス』のPPLキャンペーンでカン・マエのスーツを商品化し、2009年にはイタリアの高級スーツブランドCanali出身のデザイナー、レオナルド・ジェノヴァを招聘した。2011年には330工程の手仕事を加えた高価格ライン「MAESTRO NAPOLI 330」を発表している。

その後もブランドの再構築は続いた。2014年と2020年の2度にわたりロゴを刷新し、2020年のロゴが現在まで使われている。2017年には日本のハイエンド・ビスポークテーラー滝沢滋を総括パターンデザイナーに迎え、日本の家具ブランドStellar Worksとコラボレーションしたシグネチャーストアをオープンした。2021年には各分野の国内専門家へのインタビューで構成した「月刊MAESTRO」キャンペーンを展開し、2023年にはロッテ百貨店本店にセレクト型シグネチャーストア「CLUB MAESTRO」1号店を開いた。海外人材の招聘、コンテンツ、店舗での実験を並行して進めてきた経歴が、今回の高級化戦略の背景にあるわけだ。
40周年を起点に掲げたスローガンは「イタリアン・エレガンス(Italian Elegance)、時代を超越するエレガンス」である。しなやかな構造と快適な着心地を強調する「ソフトテーラリング(Soft Tailoring)」、長い伝統に現代的な感覚を加えた「モダンヘリテージ(Modern Heritage)」、技術革新と職人精神でテーラリングの完成度を高める「クラフツマンシップ(Craftsmanship)」を3大コアバリューとし、クラシックの品格と現代的な実用性を兼ね備えた紳士服を展開する計画だ。
実行戦略の軸は、ハイエンドラインとパーソナルオーダーサービスである。Loro Piana、Zegna、Colombo、Piacenzaなどイタリア最高級の生地メーカーの素材使用を増やし、現地の有力メンズブランドとの協業も推進する。イタリアで生産するハイエンドライン「ALBERO(アルベロ)」も強化する。生地調達と生産地をイタリア側へ広げるこの選択は、サプライチェーン(SCM:原材料調達から生産・流通までの流れ)の観点から見れば、国内の量産基盤の上に海外の高級生産軸をもう一つ重ねる構造と解釈できる。
パーソナライズサービスの重みは数字でも確認できる。現在、パターンオーダーサービスはスーツ売上全体の約30%を占める。MAESTROはこれを、パターンオーダーの「スー・ミズーラ(Su Misura)」、ビスポークの「アルタ・サルトリア(Alta Sartoria)」、イタリアでのオーダーメイド「サルトリア・イタリア(Sartoria Italia)」に細分化し、顧客の好みや体型に合わせたテーラリング体験を提供してプレミアムスーツの需要に応える方針だ。すでに売上構成比が相当に大きいサービスを価格帯と製作の深さに応じて階層化することは、顧客が上位段階へ移行する道筋をつくる設計とみることができる。ただし段階が増えるほど、店舗の接客スタッフの専門性と製作リードタイムの管理が伴わなければならない点は課題として残る。

世代交代への模索もうかがえる。MAESTROは20〜30代のウェディング需要に合わせ、今年新たに発表した「ローマスーツ」を中心にセレモニーラインを強化し、パーティーや授賞式、ガラディナーなどフォーマルな場へとスーツの活用領域を広げる。レザーを主軸にプレミアムカジュアルを網羅する「ソーシャルライフウェア」も拡大する。シグネチャーのセレクトショップ「CLUB MAESTRO」では、イタリアンを中心とした海外商品の構成を増やし、メンズの多彩な嗜好を提案していく計画だ。ホームページのセレモニーカテゴリーや店舗予約との連動がこの戦略と噛み合っている点からは、オンラインでの検索とオフラインでの接客を一つの導線にまとめようとする意図が読み取れる。
海外事業の試金石はベトナムである。MAESTROは2022年にホーチミンのサイゴンセンターに初の海外店舗をオープンし、2023年にはハノイのチャンティエン百貨店に2号店、今年4月にはハノイセンターに3号店を出店した。同社によると、昨年のベトナム売上は前年比約20%増加した。MAESTROはベトナムで培った事業運営力をもとに、さらなる海外市場への進出を模索する計画だ。韓国語・英語のホームページ開設も、こうした現地化拡大のコミュニケーション窓口としての役割を見据えたものとみられる。
LF MAESTRO事業部長のユン・ジョンヒは「MAESTROの40年は韓国紳士服の技術力を発展させてきた歴史であり、長きにわたりブランドを信じて選んでくださったお客様と共に築いてきた資産だ」とし、「これからもイタリア紳士服のエレガントな美学に韓国の繊細な感性と技術力を加え、新たな世代と世界市場でも認められる韓国を代表するラグジュアリーメンズブランドへと成長していく」と述べた。
残る問いは実行の順序である。以下は記者の論評だ。イタリア製生地・生産の拡大とオーダーサービスの細分化は、単価を引き上げる戦略であると同時に、長年の顧客層と20〜30代のウェディング需要という異なる顧客層を一つのブランドの中で納得させなければならないという課題をもたらす。ベトナムで確認した成長を他の市場に移すには、現地の流通パートナーの選定や、オーダーサービスの海外運営方式に関する決定が欠かせない。40周年イベントが過去を証明する仕掛けだったとすれば、今MAESTROが下すべき意思決定は、その技術資産をどの価格帯で、どの市場において収益構造へと転換するかに関するものである。












